CREATIVE SPORTS LABにてトークセッションシリーズ第5弾「NEXT SPORTS TOWN ‐スタジアム・アリーナを中心としたまちづくり‐」が開催されました。
スポーツファシリティ研究所から上林功さん、NOSIGNER(ノザイナー)から太刀川瑛弼さんを迎えてのトークセッション。まずはそれぞれのこれまでの「スポーツ」や「街づくり」に関わる活動についてご紹介いただきました。
上林さんはスポーツファシリティ研究所を主宰し、スポーツ施設を専門とした建築コンサルティングの仕事に取り組んでいます。
建築家・仙田満氏のもとで「尼崎スポーツの森」や「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」の設計・管理に携わってきたという経験をもつ上林さんは、仙田氏の提唱する、子ども達が興味をもち長時間楽しむことができる遊具の構造を元にした「遊環構造」という概念に大きな影響を受けたそう。これは、普通の遊具には「機能的段階(使える)」、「技術的段階(遊べる)」という段階がありますが、本当に人気のある遊具は、設計者が意図しなかった創造的な使い方を引き出す「社会的段階」が生まれ、何度も何度も使われる遊び場となる、ということを元にした考え方。滑り台のデザインがただ滑るだけでなく、寝転んで滑ってみたり、ごっこ遊びや追いかけっこなども誘発することを想像すると分かりやすいですね。
上林さんのお仕事ではこれらの考え方をスタジアムや公共施設に応用されています。計画時には思いもしなかった創造的な使い方を受け入れられる設計として、例えば、競技で使用される用途に留まらず、マルシェや結婚式の開催など、広島市民がMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島を使い倒すにまで至った事例などを解説していただきました。
太刀川さんが代表を務めるNOSIGNERは企業・行政のブランディングをはじめ、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築設計といった総合的なデザイン戦略を手がける企業です。
野球と日常の間に橋をかけるライフスタイルショップ「+B(プラス・ビー)」や「THE BAYS」のコンセプトメイキングで、横浜DeNAベイスターズとも協働しました。「+B」は野球に興味がない人にもそのカルチャーを届けることのできる場所を目指し、2015年に横浜スタジアムにオープンしました。(現在はTHE BAYS 1Fに移転)
このプロジェクトでは緻密なデザインコードの計画があったそうですが、中でも印象的だったのは、スポーツプロダクトによくあるビビッドな色使いは普段街で使うには鮮やかすぎる、と断言していたこと。シックな紺色をブランドカラーに設定し、日本に野球が輸入された頃とときを同じくする、活版印刷が活発だった時代に流行った看板用フォント「Clarendon Font」をロゴなどに採用することで、昔から野球と親密な関係がある横浜のノスタルジーとクールさを演出しました。
休憩をはさんだのち、横浜DeNAベイスターズ 執行役員 経営企画本部 本部長 木村洋太・ディー・エヌ・エー スポーツ事業本部 戦略部 田上悦史を交えてのトークセッションに移ります。「建築家とデザイナーという、ご一緒させていただくまでは自分と離れた存在と思っていた職業であっても、表現の手段が違うだけで、本質的に考えていることは同じなのかもしれないと感じました。球団を経営する中で、興行を設計するとき、お客様にどんな表情になって欲しいか?が根底にあります。街づくりも本質的には同じ思考があるように感じ、横浜の歴史・文脈をふまえて街の人達にどう感じてほしいか?という問題なのだと思いました」と、二人のプレゼンテーションを受けて感想を延べた木村。
現在あるスポーツメーカーと共に、スポーツをもっとこども達に浸透させることを目指すプロジェクトに取り組んでいる太刀川さん。横浜DeNAベイスターズが市内の小学生に野球帽を配布したことにとても感銘を受けたそうです。プロジェクト内では野球→キャッチボール、サッカー→ボール蹴り…というような、スポーツを因数分解した体験をいかに作り出せるか?を日々考えているそう。スタジアムでプロスポーツを楽しむことと、家や街中でできる簡単な遊びやゲームは、こども達がスポーツを楽しむ初期体験として本来は密接に結びついているはず。その一方で、なかなか思い切り遊べる場所を街中で見つけるのは難しい。こども達が、自身の日常と、横浜スタジアムのマウンドや空間に繋がりを感じるには街がもっと寛容に、オープンになる必要があると語ります。
上林さんは、野球文化が浸透し「スポーツが街に寄り添う」を体現する広島の街を例に取り、生活の至るところに野球チームや選手の存在を感じることや、スタジアムも市民の声を聞いて増改築を重ねている事例を紹介しました。そこには、竣工後の建物であっても使い倒して作り変え育てる意識があるといいます。
「一方で、どの球団でも行っているような屋外広告などを使って、『街に広げていく』という試みはハード面でのアプローチですが、現在ベイスターズが取り組むTHE BAYSやCREATIVE SPORTS LABはこれまで見たことのない、ソフト面での取り組みだと思っています。ソフトだからこそもっと多方面に広がれるのではないかと思います。」という「プロスポーツチームが及ぼせる範囲」への指摘はとても印象的でした。おそらく会場にいた人は、「横浜のボールパーク・スポーツタウンに来た」と感じる境界線を想像してみたのではないかと思います。
インターネットに繋がれた、パソコン・スマートフォンがあればどこでも快適ですが、その一方で、空間の価値があらためて問い直されている現代。これからのスポーツタウンを作っていく上で重要なヒントがたくさん出たイベントとなりました。
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