CREATIVE SPORTS LAB(CSL)の新たなシリーズイベント「野球で防災をアップデート!」が4月18日、始まりました。「守備力」をキーワードにした参加型のイベントに、約40人が参加。野球やベイスターズを切り口にしたからこその「楽しい防災」のアイデアが続出し、横浜ならではの新たな防災の可能性を感じる会となりました。
イベントではまず、地震学者、デザイナー、企業防災プランナーの3人のゲストが、災害に関する最前線の経験や考え方を、アイデアのヒントとして共有しました。
地震学者の大木聖子さんが「防災意識向上のコツ」として強調したのは、「自分の文脈に置き換えること」。
大木 「今後30年間に、震度6弱以上に見舞われる確率」なんて言われても、実感がないですよね。だから強制的に発生時間を設定する。たとえば「あす19:00、首都直下型地震が発生」したら、その時、あなたは何をしていて、どんな問題が起こりますか?
司会者が「青森に出張」と答えると、「自分は難を逃れても、家族との連絡は大丈夫?」と大木さん。状況がリアルに思い浮かび、会場に緊張感が走ります。
大木 「これだけは起きてほしくない」ことを思い浮かべ、「それを避けるために何ができるのか?」を考えると、アイデアにつながるのではないでしょうか。
デザイナーの太刀川英輔は、行政史上最大の防災計画である「東京防災」(電通と協働)を手がけた経験から、より多くの人に届けるための色やデザインの重要性を説明しました。
太刀川 「東京防災」は、情報量が多くてごちゃごちゃしていた分、ビジュアルを黄色と黒で統一し、キャラクターも工夫しました。それで印象が強まったところもあるんじゃないかな。
「防災」をインターネットで画像検索すると、似たようなデザインがたくさん見つかるように、統一された色は印象を高める効果がありそう。さらに、多くの人に届けるためには、人気が出そうなコンテンツに「擬態」するのも有効な方法です。
太刀川 たとえば、ドラゴンを倒すとか。防災で、野球の興奮をそのまま感じられるようにするにはどうすれば良いでしょう? 野球ファンやベイスターズファンが好きなものをうまく組み合わせていけば、広がっていくはずです。
コクヨ株式会社の酒井希望さんは企業防災の視点から、防災用品を「備蓄」だけでなく、使える状態を「継続」することの大切さを訴えました。さまざまな企業に導入した防災用品が東日本大震災時、期限切れや担当者不在、使途不明、オフィスのレイアウト変更などのため機能しなかったことを踏まえてのことでした。
酒井 3.11であらためて突きつけられたのは、「『備蓄』イコール『防災ができている』のか?」ということ。防災用品は「日常では使われない」という前提もあり、いざという時に役立つためには、顧客コミュニケーションや誰にでも分かるデザインが大切になります。
また、実験的に職場に3日間寝泊まりしたり、企業の防災担当者が集まる連絡会を開いたりした経験から、「コミュニケーションツール」などの防災の可能性も強く感じているとこのこと。
酒井 災害発生を想定したワークは、初めて会った人同士が「アウトドアできます」「子守は得意」「救命講習の資格持ってます」と個人を出しながら、仲良くなっていきます。そういう効果を狙えば、防災を楽しくポジティブな方向に持っていけるのではないかと思います。
後半のグループワークは、野球を絡めて「横浜の守備力を高める」アイデアを考えました。ゲストの話を受けて生まれたアイデアは、大きく分けると観戦グッズを防災用品として活かす「プロダクト系」と、防災意識やスキルの向上を図る「コンテンツ系」。大盛り上がりだった発表の内容の一部を、ダイジェストでお伝えします。
プロダクト系で始めやすいのは、「すでにある」グッズの使い方などを工夫すること。いくつかのグループから、具体的なアイデアがあがりました。
グループ1 スタジアムのイベントで配布される「横浜ブルー」のLEDライトを、非常灯としても使えるようにするのはどうでしょう。
グループ2 透明なメガホンをつくってセットにすれば、LEDライトの強度を調節できるし、自立もするから便利なはず。
大木 青は心の安定につながる色で、非常時にとても有効。ベイスターズのチームカラーが青なのは、防災に取り組む上でも「超ラッキー」かもしれないですね。
グループ3 ベイスターズが売っている缶入りの「青星寮カレー」を、各家庭で一定期間ごとに食べて更新していく「ローリングストック」にできないでしょうか。
大木 防災の啓発をすると、「我が家はアウトドアが得意で、山で3日間は生きていけるから大丈夫」という人がいます。同じように、「我が家は野球ファンで、スタジアムで何時間も過ごせるから大丈夫」とみんなが言える横浜を目指せば良さそう。
太刀川 野球も災害も、非日常という意味では共通。「ベイスターズのグッズは、命を守る」と言い切れば、買って使うだけでなく、定期的に買い直したり、しまっておいたりすることにも価値が生まれますね。
コンテンツ系は、野球の楽しさや、選手のブランドを活かして防災をポジティブに考えるアイデアが。
グループ4 スタジアムでのイニング間の「ハッピースターダンス」に、身を守るポーズを入れた「防災バージョン」をつくって、優勝者にはサイン入り防災グッズを送る企画を考えました。
太刀川 たとえば、横浜の人は「ボール」と言われると、みんな丸まって身を守るポーズになる、とか面白いよね。
酒井 「楽しいスタジアムでもらったグッズ、家に帰って開けてみたら防災だった」という流れも、防災をポジティブなものに変えてくれそうですね。
グループ5 行政がやると真面目さばかりが見える防災も、スター選手ならスタイリッシュに見せられるんじゃないかな。
酒井 イケてる人がやると、イケてるコンテンツに見えてくる、というのはあります。今さら防災をカッコよくするのが難しい中で、スーパースターの力を借りる効果は大きいかもしれませんね。
大木 いまの社会は、防災している人は「意識高い人」で、していないのが「デフォルト」。そこで選手の力を借りれば、ベイスターズファンは「防災できてるのがデフォルト」という状態に持っていけるかも。
太刀川
これはもう、企画にしたい。「I ☆(LOVE) YOKOHAMA」の派生で「We Save YOKOHAMA」を展開できないかな。象徴になるベイスターズのリリーフ投手陣にも試合で頑張ってもらいつつ、「ベイスターズが野球ファンを、そして横浜のまちを守る」となっていけば、野球や野球ファンの価値がもっと上がっていくはず。
アイデア発表は、大盛り上がりのうちに幕引きとなりました。何よりの収穫は、かたい話になりがちな防災を、予想以上にポジティブに、楽しく考えられたことです。
酒井 防災をこんなに楽しんだイベントは初めてです。
大木 楽しむことは、決して不謹慎ではないし、とても大切なこと。
太刀川 集まったファンに共通する感覚があったからこそ、出てきた可能性だと思います。
CSLの防災プロジェクトは、スタジアムとまちの境界線を超えて「“守備力”が高い横浜」を考え、野球の価値を野球ファン以外にも共有しようと企画しました。
たとえば、横浜のまち全体に、観戦と応援の機能を兼ね備えたグッズが配られる。その使い方は、スタジアム観戦に通うファンがよく知っていて、非常時には各地で防災リーダーになるーー。年間200万人を超すファンにご来場いただいている野球の力を活かせば、そんな風に野球やファンが「まちを守る・助ける」ことも可能かもしれません。
CSLでは今回の気づきを踏まえ、今後も野球がまちに対して生み出せる価値を追求し、形にしていきたいと思っています。
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